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小川町USPファームだより 2021年12月号

発行日:2021年12月3日
制作:US.Peaceファーム & NPO生活工房「つばさ・游」高橋優子

今月号は

をお届け致します。

今月の農家さん「(株)風の丘ファーム」

今月は、小川町の有機農家さんの中から、(株)風の丘ファームさんをご紹介します。

21年度に始めた「今月の農家さん」コーナー。 5月・6月・8月号に続き、 4軒目もスタッフが取材も兼ねた農作業をさせていただくという形で、記事を作成しました!

「風の丘ファーム」さんは、1984年に霜里農場の研修を終え就農した、 田下隆一さんが代表をつとめる農業生産法人。 農園があるのは小川町の北東部の地区。 以前は八和田村といい、その名の通り昔から田んぼに適したエリアだったようです。 いくつもの畑・田んぼを合わせると、7ヘクタールを超える面積で、年間70種類以上の作物を、 個人の家庭・自然食品店・レストランなどに届けてらっしゃいます。

ちょうど、11月末に「小川町SDGsまち×ひとプロジェクト(6S)」のセミナーに 「SDGs時代の食・農・環境 ~循環型農業と循環型社会~」というテーマで登壇されていたので、 そちらもじっくり聞かせていただきました。

「(株)風の丘ファーム」(小川町上横田)

駅から車で10分弱。 出荷場、ハウスもあるご自宅に到着したのは朝の8時半頃。 周囲を、オレンジ色の葉をつけた広葉樹に囲まれ、秋を感じます。

スーパーなどに共同で出荷するために近隣の農家さんが農産物を持って訪れたり、 大きなトラックが集荷にやってきたり、 朝から人やものが頻繁に出入りしている様子が新鮮です。

<ご自宅の写真>

現在、風の丘ファームさんで働いているのは、田下さんご夫妻(隆一さん・三枝子さん)、 研修生2名、出荷作業のパートタイマーさんなど数名。 耕作面積や、お客さんの数・顔ぶれを知ってからだと少数精鋭な印象を受けますが、 蓄積された栽培・販売のデータを活用したり、注文票をもとに出荷表と収穫表を自動で作成する仕組みを整えたり、 作業効率を上げる工夫をされているのを見ると少し納得しました。

朝、紙に出された収穫表を見ながら、担当どうしがどこの畑に行って、 何を収穫するかの相談をします。一つ一つの畑は離れた場所にあるので、 できるだけ移動時間が短くて済むような役割分担をするのですね。

最初について行かせてもらったのは、こちらの葉物野菜やカブ、大根などがずらっと並ぶ畑。 よく見ると、1〜2条ずつ異なる品種なのがわかります。

からし菜、わさび菜、水菜、小松菜、山東菜、ちんげん菜… どれも葉が茂って美味しそうです。

カブ、大根、にんじんなど根菜類が、とにかく色とりどりなのに驚きます。 レストランでお料理に丸ごと使えるようなサイズの注文もあるからか、 収穫表には「ミニ〇〇」「姫〇〇」などの記載も。 決められた量だけ、そのサイズを狙って収穫する必要があるので、これは慣れるまで大変そうです… !

そもそも、同じ品種が複数の畑で栽培されているので、 今その作物をどこで収穫するのが良いのかを把握していることにすごい! と感動してしまいました。 (毎日のミーティングの中で「そろそろ、どこの何が出荷できそうです」など、 情報共有されているので可能なのでしょうか)

<小川町に移転したレストラン アテリコさんでも風の丘野菜が>

葉物を収穫したら、トラックに積む前に霧吹きをして新聞をかけます。 一通り予定していたものを獲り終わると、出荷場に戻り、 土がついたものはその部分を水で流して綺麗にしてから、 袋・箱詰めのスタッフにバトンタッチします。

根菜類は一本ずつシンクで手洗いしていました。 この一手間で、一気に「野菜」が「商品」の顔になるのが不思議です。

風の丘ファームさんのお野菜はどれも美しいのですが、 ①病気への対策として「(露地でも育っていける)強い苗づくり」「様々な生き物が生きていける土作り」、 ②害虫対策として「バンカープランツ」「麦マルチ」など、 ③雑草対策として「太陽熱消毒」「カブトエビによる雑草防除(田んぼ)」などを行っているということでした。

野菜の性質を見つめて環境への負荷が少ないような対策をし、 畑に住む小さな生物の力も借りるためにその生物が生きやすい環境を整える。 畑の規模が大きいからこそ、身の回りにある資源で上手く生産をされていて、 その説明も論理的でとてもわかりやすいと感じました。

<太陽熱消毒>

東京で暮らす中で農家に魅力を感じて、最終的に小川町の霜里農場にたどり着き、 この地で就農された田下さん。

そのときに、播種から収穫までの栽培の知識はもちろん、 農家の暮らし方や経営の部分までを住み込みで一貫して学べたこと、 同世代の農業を志す仲間とのつながりが生まれたことが、 今でもとてもよかったと感じているそうです。

自分のように新たに農家として生きていこうとする人たちの助けになりたい。 そんな想いで、なんと就農したその年から研修生を受け入れ始め、 現在までに1ヶ月以上(多くが1〜3年)の中長期で研修をしていった人の数は100名ほどにもなります。

研修資料を少し見せていただきました。 生産に関する文献や講座の紹介をする、段階を踏んで機械の講習を行う、 良い土地や道具を貸し出す、判断力が必要な「農場長」の役割を任せる… など、 本気で臨めば、独り立ちに必要なスキルをしっかり学べるような濃い内容で、 これが高い就農率(2014年までのデータでは70%以上)に関係しているのか… と思いました。

また、就農時には、就農先の選択の相談にのったり、 近くの場合はある程度の収量があれば一緒に出荷するという形をとることも可能ということでした。

ちなみに、研修生同士の結婚も多いのだそうで、 数日前に、遠方からそのうちの一人が顔を見せに来てくれたのだと嬉しそうに話されていて、 その様子は本当の親のようでした(笑)

<巨大ナスのBBQ。以前は研修生たちともよく集まりを開いていたそう>

この頃は町内の小学生の授業や、公民館の農業体験講座なども受け入れているので、 相手の年齢や立場に合った伝え方について深く考えることが増えてきたのだそう。

「野菜を食べる方にも、素材を生かした料理の仕方や、農産物への理解を深めてもらえたら」と田下さん。

コロナ禍において、暮らしや食に対する一般的な考え方にも変化が生まれています。 その中で、小川町の有機農家として、新しいことも取り入れながら、 周辺の裾野を広げていくのが今の風の丘ファームの一つの目標。 40年弱もこの地で有機農業をされている田下さんご夫妻に、今後も、 その動きから学ばせていただきたいと強く思いました。

この度は記事を書かせていただいて、ありがとうございました。

<食品残渣と籾殻を使用した堆肥を畑いっぱいにまいている>

11/27(土)実施 農業体験会(大豆収穫)レポート

農業体験会(大豆収穫)を11/27に実施しました。その時の様子をまとめたレポートをご覧ください。

農業体験会(大豆収穫)レポート

【シリーズ】霜里農場 金子美登さんと目指す私たちの未来(21)

12月8日は「有機農業の日」です。

今から15年前の2006年に「有機農業推進法(※1)」が議員立法(※2)で成立しました。 (有機農業推進法は超党派の議員の皆さんによって成立しました。)

1971年、日本に有機農業という言葉が生まれて、 2006年まで日本政府の中には有機農業という言葉はありませんでした。

金子さんを始めとする日本の有機農家さん達は「農を変えたい!全国運動」を提唱し、 それに呼応して日本全国各地の有機農家さん達が一致団結して法律制定に向けて大きなうねりを作り上げ、 2006年12月8日に「有機農業推進法」が成立したのです。

制定から15年が経ちますが、日本では有機農業の普及は0.8%と遅々として進みません。 持続可能な食の生産方式や、気候変動を防ぎ生物多様性を守る手段として有機農業の重要性が世界で高まっているにも関わらずです。

それから50年。今では小川町には有機農家さんは60~80人はいるのではないかと思われます。 (農家になる条件をクリアした農家認定をとっている人、とっていない人もいるので明確な数字が出にくいのです)

そして「有機の町」としてつとに有名になり、 今では小川町の有機農業に関心を持って移住して来る人が後を絶ちません。 「有機の町」から「幸せの町」へと変貌をとげようとしている小川町です。 そんな幸せの形が創造出来るのか市民や自治体の姿勢が問われているのでしょう。 みんなが幸せを感じる事が出来る有機的な町を目指していきたいです。

今、「有機農業の日」を祈念して「みんなのオーガニックフォト&ムービーコンテスト2021」を募集中です。 締切りは12月31日。募集要項はこちら ⇒ 「有機農業の日
奮って、幸せな有機農業の姿を応募下さい。

(※1)有機農業推進法

(※2)wikipedia「議員立法」 /  衆議院法制局「議員立法」

今月の小川町の話題

★【情報1】あらたな観光案内拠点「おいでなせえ小川町」

小川町の持つ観光ポテンシャルを最大限活かすべく、小川町の若い有志が集まって作った会社です。 小川町駅から徒歩2分の元観光案内所に開設しました。

小川町の様々な体験プログラムが用意されています。 是非、HPやFacebookを覗いて、さらには LINE登録をしてみては如何でしょうか。

「おいでなせえ小川町」HP

LINE「おいでなせえ小川町 (@329tswhf)」

様々な魅力ある小川町の情報が届きます!!!

★【情報2】イベント参加レポート 自然×有機×ノスタルジー ~五感で癒されて、小川旅。~

11月20日土曜に、霜里農場とそのすぐ隣にある下里分校で、 「食事」「景観」「体験」という3方向から里山の恵みを楽しむ日帰りイベントが開かれました。

主催は「小川町SDGsまち×ひとプロジェクト」で、市民や町の職員から構成された有志実行委員メンバーが、 農場見学&体験、周辺散策、屋外コースディナーなどの全てを企画。 US.PeaceFARM のスタッフも総出でお手伝いがてら見学させていただいたので、その様子をお伝えします。

イベントのスタートは、お昼前。 小川町駅からバスで吉田家住宅というちょうど築300年の茅葺の民家で、 有機野菜たっぷりのお弁当(満席なことも多い「分校カフェMOZART」のもの)を食べます。

かまどや囲炉裏、うまやの跡も残る昔ながらの農家の住空間で、 当時の暮らしを感じ、改めて「食べる」ということへのありがたさに気が付けました (かまどご飯やお味噌汁もいただきました)。

<別日に撮影した「分校カフェMOZART」のお弁当>

再びバスに乗り、霜里農場の見学へ。 息子さん、金子宗郎さんの案内で、天ぷらなどの廃食油で走る車や、 家中の温水や床暖房などにも使える薪ボイラー、 家畜糞尿や生ごみ等でメタンガスをつくるバイオガスプラントなどについて教えていただきました。 作業は、今がちょうど植え時期の玉ねぎを数十本ずつ定植させてもらいました。

この日は、他にも農作業をしている団体があるようでしたが、 金子美登さんや友子さんは各々の作業に勤しんでらして、畑の脇の鶏や牛が鳴いて出迎えてくれました。 霜里農場の日常を垣間見て、商品・食材としての野菜はこんな環境で育っているのか、 と実感することができた時間でした。

作業まで終わると、薪ストーブで温まった分校の音楽室に戻り、 シフォンケーキとお茶をいただきながら休憩。 途中から、オランダ式(日本製)の大きな手回しストリートオルガンの音が聞こえ始め、 我々含め何名か、ハンドルを回して演奏を体験する方もいました。 リコーダーのような優しい音色がレトロな校舎や校庭にとてもよく合っていました。

そのあとは、往復1時間以上の散策。 分校の運営や移住支援など幅広く行う地元NPOの代表が、 湧き水が湧く場所まで、紅葉が始まった下里地区をたっぷり案内してくださいました。 この湧き水、実は夕食のデザート前に出たコーヒー・ハーブティーに使われていたそうです。 素材へのこだわり… !

散策から帰ると、松岡醸造「帝松」の酒粕(大吟醸)甘酒が手渡され、校庭へ。 すると、先ほどまではガランとしていた空間が、一気にディナー会場へと姿を変えていました!

12台ならんだテーブルには、食器やカトラリー、 山で集めた鮮やかな木の葉などがきれいにセッティングされ、前方にずらっと火が焚かれています。

ここで参加者は、前菜、スープ、リゾット、お肉、デザート… と、 秩父の名店「cucina salve(クチーナ・サルヴェ)」のお料理を堪能することとなりました。

霜里農場で学んだ経歴もお持ちのオーナーシェフ坪内浩さん。 現在は秩父食農という会社で、有機農園とイタリアンレストラン、さらには秩父の企業も巻き込み、 その中で持続可能な循環を生み出したことで注目を集めています。

この日は、いつもお店で使用している秩父食材ではなく、 霜里農場・風の丘ファーム・横田農場・サンファーム高橋の野菜・卵・肉・お茶、 武蔵ワイナリーのワイン・葡萄ジュース、ブリスクルコーヒーのコーヒー… など、 小川町のものを使用して特別なコースに仕立てていただきました。

中でも、「青色のあやめ雪かぶ」と「ピンクの皮の安納芋」についてのお話は印象に残っています。 どちらも、お皿の上の彩りを考えて、野菜の中のアントシアニンの性質を利用した調理法をとっているそうです。 一緒に使う食材や調味料の酸性・アルカリ性を考慮することで、紫色が青色や赤色になるんですね。

デザートに使用されていた干し柿のことも。 こちらは、一週間前まで生の渋柿だったということでとても驚いたのですが、 薄くスライスして風に当て続けることで、 本来なら数ヶ月かかって起こる変化を一週間に縮めて完成させてしまったというのです。

思えば、堆肥づくりも山の中でゆっくり生成されるはずのものを、 分解・発酵の条件を整えて、短期間でつくったもの。共通点があります。

有機農業も坪内さんのお料理も、どちらも外から科学の力を与えない代わりに、 素材を科学的によく理解して導くことでいろいろな可能性を広げています。 そんな本質をしっかり見つめた農家とシェフのコラボレーションで生まれたディナー。

幻想的な夜の会場で、冬を感じる澄んだ空に満月と星々を見上げ、 有機農業50周年とますます面白くなっていく小川町に思いを馳せた夜でした。

今回のイベントを企画した実行委員会の委員長は、 「参加者の皆さんには、食材から和紙のランチョンマットまで小川町産のほんものに触れてもらい、 静かな星空の下で焚き火を眺めながら、特別な時間を過ごしてほしかった」とお話しされていました。 このようなサービスに磨きをかけていくことで、 金銭的にも地域に還元していくことができるようにという狙いもあるそうで、 来年度以降も実施していきたいとのことでした。

シェフズテーブルの方も企画は進めていきますが、このような機会がまたあれば、 みなさんにもお知らせしたいと思います。

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