小川町USPファームだより 2023年10月号
発行日:2023年10月6日
制作:US.Peaceファーム & NPO生活工房「つばさ・游」高橋優子
今月号は
をお届け致します。
小川町の畑情報
(文:高橋かの)
最近の横田農場さん 〜今後の栽培・販売について〜
曼珠沙華の見頃もピークを超えた9月29日、横田農場さんの取材に伺いました。
USPファームでは「おいしいお野菜届け隊」という定期購入のお野菜の販売方法を行っていますが、 「気候や社会の変化にともなう、今後の栽培方法と販売方法の変更の可能性」を考えるため、 よりわかりやすく、畑は今どんな状況なのか?を、このレポートでは、お伝えできればと思います。
今回は、特に多くの方々に農家さんの現状をお伝えしたく、一歩踏み込んだレポートとなりました。
なお、これは徐々にここ数年数十年かけて進行してきていることなので、 この一日で取材できたのは、その一角だということでご理解ください。
こちらが、「おいしいお野菜届け隊」で各家庭に届くお野菜セット。 その週にとれた野菜と、時々うどんなどの手作り加工品も同梱される、盛りだくさんな内容。
季節のおまかせ野菜セットを、顔の見える限られた消費者へ定期便で届ける、 というスタイルは、小川町の有機農業の生みの親「霜里農場」に原点があり、 小川町系の有機農家では30〜40年前からよくとられている販売方法です。
しかし、ここ5年ほどで、小川町の中でもこのスタイルを主とする有機農家は、 若手を中心に減りました。半農半X的にしたり、施設栽培を試みたり、 独自のルートで都市に直接販売に行ったりと、独自のスタイルに切り替えているのです。
昨年、一昨年に取材させてもらった、だいこんや農園さんやサンファーム高橋さんもその例と言えそう。
では、"気候の変化" や "社会の変化" が、 実際にどのように栽培・販売に影響しているのでしょうか?
まず一つは、気候によって、普段育てている品目の野菜の栽培が難しくなっているということ。
<小さいまま枯れてしまっているきゅうり>
特に今年の夏はそれが顕著で、7月に雨が少なかったことと、8月は昼夜問わず気温が下がらなかったことで、野菜がかなり弱ってしまったそう。
<例年よりも多く虫に食べられたナスの葉>
<収量は悪くなかったそうですが、オクラにも毛虫がたくさんいました>
弱った野菜はからだを大きくすることができないので、虫害・病気などダメージを受けやすく、 かなりの品種で収量が減っていました。
<ネギは大きくなってから腐ってしまったものがたくさん>
段々と、関東で今作っている野菜が作れなくなってきて、 より南側の暑い地域の野菜を作る … というように、 作る品目を変える必要すら出てきているのかもしれません。
<隣接する畑は耕作放棄地に。獣の棲家になったりという二次的な害もある>
また、もう一つは、人口減少という社会の変化によって、横田農場さんの耕作面積が増え、 細やかに世話をすることが難しくなってきているということ。
全国各地でそうであるように、小川町でも、農業者の高齢化と後継者不足により、 耕作放棄地が増えています。横田農場さんは代々続く地元農家である上に、 若い息子も 2 人いる元気のある農家ということで、 近所の方から「うちの畑もやってほしい」と申し出が増えているのだそうです。 ここ 5 年くらいは特に、そういった相談が多く、なんと今は 18,000 坪 (約6ha=東京ドームより大きい)もの面積をひと家族 4 名で回しています。
そのため、「本当は草を刈れば、少しは収穫できるかもしれないけど、 時間がかかるから諦める」「収穫し終わって、本当はすぐに片付けたいけど、後回しになっている」 という畑もちらほら。
<生育の良い大豆畑>
<大量のハトによって、多くを発芽段階で食べられてしまった畑>
<同じようにハトに食べられ、草刈りの手間を考えて、諦めた畑>
これら 2 つのような状況の中では、年間を通じて、 お客さんに送るボックスをいつも複数種類の野菜で埋めることは、徐々に厳しくなってきます。 横田農場さんは、現状、一年間で 80 品目以上の野菜を育てて販売されていますが、 もしかすると、より品目を絞って、ひと品目ごとの栽培量を増やす方が、 今後のためには良いのではないか? と考えることもあるのだと教えてくださいました。
<高熱や遮光で土中の虫や雑草を抑える工夫をしている>
<耕さずにシートをかけていた畑>
また、日本国内の有機野菜市場の変化を考えても、 50 年前に有機農業という概念が生まれた頃に比べると、スーパーで手軽に手に入るようになり、 便利な産直通販サイトのバリエーションも増えるなど、 かなり状況は変わってきているように思います。
そういえば、 定期的に送ってもらうおまかせ野菜セットをきちんと消費できる家庭の数も減ってきていて、 なかなか新規のお客さんは長く(定期便が)続かないのだ、と別の農家さんからも聞いたことがありました。 家庭の食卓事情の変化ですね。
<シートを剥がしたところに、レタスを植えている>
とはいえ、一方で、もう何十年も野菜をとり続けてくれているお客さんの存在ももちろんあり …。その関係性は、生産者と消費者のそれを超えていて、 これがもしかすると小川町らしい有機農業のあり方とも言えるかもしれません。
<インゲンは、虫の付き初めに地道に手で取ることで回避>
将来的に、小川町の農家同士の共同出荷の仕組みを作って、 みんなで野菜セットを作れるような体制をつくれば、 既存のお客さんへも変わらないスタイルで野菜を届けることができる可能性もある。 ただ、そのためには、共同出荷に舵を切る農家がある程度集まる必要があるし、 取りまとめる役割も必要になる。
一件の農家で考えてすぐ動くスケールの話ではないのでしょうが、 今年の夏は、きっと多くの農家に同じような危機感が生まれているのではと思います。
<大豆は、醤油蔵とのコラボイベントもされている>
また、新たな価値づけと市場開拓という意味では、他業種との連携による取り組みも、 本当はもっと力を入れていきたい、と横田岳さん(長男)。 今でも、加工業・飲食業・観光サービス業・企画業… など多種多様な異業種との関わりがある横田農場さんならではの発想かなと思います。 そして、そこにも、畑のことをよく理解した繋ぎ手の存在が必要不可欠なのかなとも。
lt;毎年あるピーマンの病気も、今年は多かったよう>
畑を見てお話を聞いて、今、横田農場さんがいろいろなことを考え、 仮説を立てながら動かれている最中なのだなと感じました。
冒頭にふれた「おいしいお野菜届け隊」で、 お野菜セットを定期購入してくださる予定の皆さんへは、 セット内容の調整の可能性についてご了承いただければ幸いです。
<白菜は虫もあまりつかず順調に育っている>
また、10 月・12 月・2 月の農業体験にいらっしゃる方は、 現地で横田さんともコミュニケーションをとっていただければと思いますし、 記事を読んで感想をお持ちの方はぜひ US.PeaceFARM へメール等でお気軽にご連絡ください。 スタッフが拝見し、必要であれば、農家さんへもお伝えします。
お忙しい中、案内してくださった横田農場さん、ありがとうございました。
【シリーズ】小川町今昔物語(最終回)
〜霜里農場・金子美登さん1周忌と若者が考える小川の未来〜
9/24 は昨年、74 歳でお亡くなりになった霜里農場・金子美登さんの1周忌でした。
たくさんの研修生や知り合いが次から次へとお線香を上げに見えられています。 仏壇前には歌手の加藤登紀子さんなどから贈られたお花が飾られています。
金子さんにはたくさんの研修生や知人がいらっしゃいますが、 研修年度が違うと会った事がない人や金子さんの活動が幅広かったので、 お互いに初めてお会いする方も多く、奥さんの友子さんを中心として、 美登さんとの出会いを披露しながら自己紹介し合い、話が弾みました。
偉い人は「人を残す」と言いますが、まさしくその通りだと思いました。
小川町は霜里農場・金子美登さんを起点として有機農業が広がり、 今では「有機の里」「世界的オーガニックタウン」として有名になりました。
小川町今昔という時、金子美登さんの前と後、という一つの区切りが出来るのかもしません。
この区切りを乗り越えて、次の世代はどんな未来を描くのでしょうか。
15 年前に人口 38,000 人でしたが、現在は 27,000 人で、減っていく一方ですが、小川町に これからの活路を見出した若者もいます。
昨年まで地域創成事業の一環として行っていた「小川町 SDGs まち × ひとプロジェクト」で 事務局を務めた小田穂(こだみのり)さんは、このご縁で小川町に U ターンして、 新たに様々な活動をされています。
小田さんに小川町の魅力やこれからの小川町についてお聞きしてみました。
小田穂さんの話から
2023 年 4 月から NPO 法人霜里学校の理事長を引き継ぎました。
3 年間「小川町 SDGs まち × ひとプロジェクト」事業をやって、 小川町のさまざまな活動が町内外で知られていない事が判りました。
有機の町として有名なはずなのに町外では 95%の人が知らないという結果で、 これまで情報発信してこなかった事が反省としてあげられるので、 知ってもらう取組みが必要だと痛感しました。
小川町は東京から日帰りで来れる距離なので、この利点を活かして、 人間らしさを取り戻すことができる町、という小川町の魅力をどう発信するか?
そして、一番大事な事は、その魅力で起業して、ちゃんと稼せぐこと。
稼げるようになると余白が生まれ、楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、といった事が 感じられるのではないでしょうか。
稼げるという時、小川町の有機農業は大きな武器です。
ビジネス的要素をもって起業し、 10 年後にはそのモデルを作っていたいと構想を練っています。
「生きている感情が感じられる町」を目指してプランを練っているそうですが、 どんな形になるのか期待しています。
若者が描く未来の小川町!!! ワクワクしますね!!!
<金子さん1周忌仏前>
<小田さん>
今月の小川町の話題
★【お知らせ】たべものや月のうさぎ蚤の市 11/5
小川町の駅から徒歩 30 分・車で 10 分ほどの場所に、 「たべものや月のうさぎ」さんはあります。
大きな木々と畑に囲まれた隠れ家のようなレストランでは、 無農薬・無化学肥料のお野菜を使って丁寧に調理されたお食事をいただけるほか、 センス良く改装された店内にはギャラリースペースがあって、 手づくり雑貨やアートの展示などを見られることもあります。
先日は、「大豆 LABO」という食のイベントが行なわれていて、 参加レポートをファーム便りでも書かせていただきました。
- 日時:
- 日時:11月5日(日) 10:30〜15:30
- 場所:
- たべものや月のうさぎ (角山 726-1)
- 詳細:
- ⇒ 『2023蚤の市のお知らせ』をご覧ください
★【お知らせ】小川のワイン祭り 11/4 & 5
秋の収穫祭を兼ねた限定イベントということで、 小川町の無農薬無化学肥料のぶどうを無添加で醸造している武蔵ワイナリーの「小川のワイン祭り」が開かれます。
今夏の尋常でない暑さの中、一般の収穫ボランティアなどを募りながら、 なんとかここまできた… ということを、お祝いするために企画されているそうです。
8 月に農家さん主催で開催された日本酒のイベントも、ワイナリーブランドの日本酒でした。
- 日時:
- 11月4日(土)・5日(日) 10:00〜16:00
- 場所:
- 武蔵ワイナリー
- 詳細:
- ⇒ 『第9回 小川のワイン祭り』をご覧ください
★【お知らせ】駅前にワインと雑貨のお店「mart.ogawa」がオープン
小川町駅から徒歩 2 分ほどのビルの一階に、ナチュラルワインとジェラート、 天然酵母パンなどが楽しめるカフェ&バーがオープンしました。
朝は 8 時前からオープンしていて、天然酵母パンのサンドやコーヒーも楽しめ、 週末の夜は22 時までさまざまな日本のナチュラルワインを知って味わうことができます。 観光できた方はもちろん、町の人の日常にもフィットする新しい営業形態が嬉しいです。
世界中からセレクトされた生活雑貨も、可愛らしくて珍しくて、みているだけでワクワクします。
オーナーや運営メンバーは、横田農場とも繋がりがあるので、小川町に来ることがあれば、 ぜひ立ち寄ってみてください。
<お店の様子>